先月の26日に締め切りだった、オリエント学会での発表要旨を載せておきます(知り合いのN君が載せているのを見て、ハッとしました)。文字化けしなければ、良いのですが。
ジュナイドにおける「原初の契約」とその意味
Junayd's Thought of "Primordial Covenant" and Its Meaning
Junayd's Thought of "Primordial Covenant" and Its Meaning
初期スーフィズムを代表する一人であるジュナイド(d.910)の論稿の中には,クルアーンにおいて「原初の契約」(Q7:172)として知られる節に基づいた神秘的理論がある。ジュナイドはこの節に基づく議論を通して,契約が結ばれる以前には神と人間が一体であったことを強調している。その際,神がアダムから現世で存在する以前の人間を取り出して,契約を結ぶまでのあいだは,「無始の永遠」(azal)という語で表現される。彼はこの状況を,消滅を意味する「ファナー」(fanā’)の語と,存続を意味する「バカー」(baqā’)の語で表現している。すなわち,「ファナー」の語は人間が存在しない状態を示すための語であり,「バカー」の語はこの永遠性が継続する状態を示すための語である。これらの語によって,彼は「原初の契約」の状況における神と人間の一体性を論じると同時に,現世での神と人間の合一を論じている。彼にとって,現世で神と合一することは,この「無始の永遠」における神と存在以前の人間の未分離の状態へ回帰することに他ならない。
また,ジュナイドはスーフィーの目指すべき神的合一という理想的状態を示すために,タウヒードの四つの段階を提示した。神の唯一性を示す礼拝や告白などの信仰行為によるタウヒード,外面的な知を持つ者のタウヒードが論じられた後に,「選良」によるタウヒードが論じられる。この者たちは前段階の外面的な知に加えて,内面的な知を併せ持ち,神的合一としてのタウヒードへ到ることができる者たちである。彼らは「原初の契約」が結ばれる以前の状態,すなわち神と一体の状態へ戻ることを目指している。このことは「存在する以前の状態」という言葉で表現されている。
このような彼の議論を,「第一の分離」と「第二の分離」というスーフィズムの専門用語から考察するとき,「第一の分離」として捉えられる状態とは,神と人間が「原初の契約」を結ぶことによって生じる分離である。その後,一部の人々は,現世において神との合一によって消滅し,神の中に存続しながらも再び分離する。この状態は,神と人間のあいだの断絶という「第一の分離」から合一の状態へ到り,再び神と分離するという「第二の分離」として理解できる。「原初の契約」を用いて展開される彼の議論は,彼の神秘的理論の中核を成していると言えよう。