私の関心のあるスーフィズムが関係するセッションも開かれました。その報告書の執筆を依頼されました。字数制限があってかなり簡潔なものになってしまいました。なお、早稲田のジャーナルに掲載される予定です。
並行セッション8A
Emerging Approaches to the Phenomena around Sufism and Saint Veneration
澤井 真
東北大学大学院文学研究科
博士課程
本セッションでは、高橋圭氏(上智大学)の司会の下、四人のスピーカーが発表を行なった。まず、赤堀雅幸氏(上智大学)がスーフィズム・タリーカ(スーフィー教団)・聖者崇敬という枠組みから、セッションの目的と意義について説明し、続いて各スピーカーが研究発表を行なった。
二宮文子氏(日本学術振興会)は、「Towards Theoretical Analysis of Tariqa: Structural Models of Tariqa in Medieval India」において、中世インドで展開したタリーカであるチシュティー教団の形成過程を、歴代シャイフの論考を中心に考察した。文献の読解を通して、二宮氏は同教団が一二世紀のインドへの進出の後、一四―一五世紀の組織的展開や体系化、さらに一貫性のある世代間の継承を経て、近代的なタリーカへ展開したことを明らかにした。
Alexandre Papas氏(CNRS)は、「Islam and Sufism in Eastern Tibet: a Minority Approach」において、チベットのアムド(amdo)地区に居住するサラール族(Salar)におけるスーフィズムを、ナクシュバンディー教団の指導者たちを手がかりに考察した。Papas氏は、この地域におけるムスリムを、マイノリティーという視点に立って理解するとき、イスラームやスーフィズムが集団的記憶を留めるための大きな役割を果たしたと結論づけた。
藤井千晶氏(日本学術振興会)は、「Successive Knowledge of the Prophet in Medical Treatment: The Case of East Africa」において、タンザニアに見られる伝承の医学を考察した。実際の治療映像とともに、この医学では “jinni”(ジン)が重要な役割を果たしていることが説明された。さらに藤井氏は、一九八〇年代以降、伝承の医学を取り巻く言説の変化を通して、クルアーンやハディースとの親和性が強調されてきたことを明らかにした。
若松大樹氏(上智大学)の「The Ocak of Kurdish Alevis in Turkey: the Relationship between the Ritual Practice and the Veneration for the Ehl-i Beyt」では、トルコのクルド系アレヴィーがオジャク(ocak)という視点から考察された。オジャクには、預言者一族としての聖なる系譜と師弟関係による儀礼集団という二側面がある。結論において、若松氏はアレヴィーの聖者崇敬が、これら両側面が密接に結びつくことで行なわれていることを指摘した。
各スピーカーの発表後、Thierry Zarcone氏(CNRS)と赤堀氏が発表へのコメントと質問を行なった後、フロアを交えて全体討議が行なわれた。紙面の制限のため、各スピーカーへの個別的質問には触れないが、全体討議のなかでも特筆すべきは両氏のコメントであった。彼らのコメントは、時代と地域の異なった各発表を大きな枠組みに位置づけ、複合概念としてのスーフィズム・タリーカ・聖者崇敬へ議論を収斂させていた。こうしたセッションは、ともすれば地域性を強調したものへ陥りがちである。しかしながら、各スピーカーは両氏のコメントの意図と研究動向を十分に理解しており、全体として非常にまとまりのある討議となった。このことは地域研究に根ざしつつも、スーフィズム・タリーカ・聖者崇敬という共通の枠組みから議論を行なうための土台が、着実に形成されつつあることを示唆するものであると言えよう。